「明日からの遠方への1週間の短期任務はペレルとルードに任せる。それほど難しいことはないが心してかかってほしい。」
この遠征には新人のペレルが抜擢され、そして初めての社外ともあってフォローのためルードも任されたのは必然だ。
「ツォンさん、あの仕事、新人の教育も兼ねてんだろ、と。」
それを聞いたレノがもう1人の研修もさせてしまおうと言葉巧みにそれらしい理屈を重ねることで臨時主任も渋々それを認めた。
ルード、ペレルの班と臨時遠征が決まったレノと……エイジだ。
レノの思惑通りエイジも"勉強"させられることになった。
ツォンはあくまでこれは任務だと口酸っぱく忠告したというのにやはりこの赤毛の男は
新人指導とは口ではいうものの当人は宿舎と繁華街の往復。ルードもわかっていたかのように黙認せざるを得ない。
「はい、お二人さん。6日間ご苦労さん、と。」
「何がご苦労さんだよ!レノは何もしなかったじゃねぇか…。」
エイジは誰よりも疲弊しきって死んだ魚のような眼つきでアルコールを口にした。
「仕事なんてもんは数こなしてナンボなんだぞ、と。それがまだわからねぇってことは、さてはサボってたのかな、と。」
「…あ、あのな〜!」
そんな二人のトークを傍観しつつペレルもルードも適当な居酒屋での打ち上げを楽しんでいた。
年末も近いこともあり店内ではあちこちの団体席で派手な笑い声が零れ、その雰囲気も合い高まって酒に自然と手が伸びる。
そして夜も深まって店内の客がレノ達の席に集まりはじめていた。
「いいぞ!赤毛の兄ちゃん!」
「まだいけるだろよ!もみあげの兄ちゃん!!」
「!誰がもみあげだぁ…〜!」
レノの軽い挑発にまんまとひっかかったエイジは一気にグラスのパッソアトニックを煽りレノに空のグラスを見せ付けた。
テーブルの上には大量のグラスやジョッキ。流石にマズいだろとペレルは初めこそは止めはしたが、ルードに止めても無駄だと諭されそれでも隣りで心配そうに見上げる。
「…っとにコイツは正真正銘馬鹿だぞ、と。ルード、撤収だ、と。」
意外にも白旗を揚げたのはレノでふらつきはしたものの比較的しっかりした足取りで席を立った。
それを見て勝利を確信したエイジは何やら言いながら糸が切れたように倒れ寝こけた。
「あ、あとでソイツのかばんの中身見てみな、そいつなりに考えたみたいだぞ、と。」
領収書をヒラヒラさせながら暖簾を揺らし、ルードは情けなく転がったエイジに上着を掛けレノの後に続いた。
ペレルは二人に礼を言いたかったが倒れた瞬間にブラウスの端を掴んだエイジのせいでその場から動けず最敬礼をし、困った様子でエイジに目をやる。
「……カバン??」
起きる様子などないがペレルはそっとかばんに手を入れるとタイムリーな赤と緑で綺麗に包装された箱が転げ落ちた。
丁寧に包みを広げると、白銀の可愛らしいネックレスと居酒屋に削ぐわねクリスマスカード。
「おつかれサン。」
ふいにエイジは声を発し壁に向かって寝返りを打った。
寝言で言ったのか寝言のつもりで言ったのか顔を隠した今となったはわからない。
「何で俺まで行かされるんだよ、レノ!あんな仕事ペレルとルードで大丈夫だろ?」
「お前さぁ…、アイツのこと何もわかってねぇんだな、っと。」
「…ペルレは……、飲み込みも速ぇし真面目だし、俺なんか行ったら足引っ張るだけだろ。」
「俺にはペレルがじゃなくて仕事の事なら大丈夫だって聞こえるぞ、と。」
「………!……。」
「…どんなに仕事がデキる風に見えても、その分一人で目上の信頼を背負うってのは酷くキツいんだぞ、と。特にあんな子は。」
「………ルードが……いるんだろ。」
「…………行く決心ついたようだな。早いとこ荷物まとめろよ、と。」
上着をもう一度掛け直し、声ひそめる様にありがとうと
溜息と…
「……素敵……。
ルード先輩って優しいんだ……。」
先輩としての優しさと仕事人としての熱意に触れ、3馬身ほど前へダークホースがリードを広げた。
05/11/15
今はルードの紳士っぷりが短銃ちゃんの脳裏に焼きついててロッドが眼中にありません。頑張れもみあげ。(笑)