今晩で5人目、赤外線レーダーがけたたましく鳴った。

File,1 date 22 sep.
白昼堂々と正面ロビーに現れる訪問者を見かける。
受付の者が不審に思い用件を聞こうとしたところ突然エレーベーターに走り出したが 、守衛の手によって身柄を確保。
後に意味不明な事を叫び続けたため独房室に隔離するが、翌朝逃亡。


訪問者の容姿手口は異なるがこのような事件が立て続けに起こった。
ただ共通しているのは翌朝には跡形無く姿を消していることと手の甲の星を模した刺青。

「どうやらアバランチとは違うようだが用心に越したことはない。あの星紋の連中が行き来しているとの目撃情報があるが、恐らく手探りの調査となるだろう。」
いつもより一層深いシワを額に刻んだヴェルドは黒髪の女に調査を要請した。
「アルエなら今回件も解決できると思うが、流石に今回は情報が無さ過ぎる。ハインを援護に頼んでおいた。」
アルエは早々と準備にかかる。正直事件の結末なんて関係ない。
今はとにかく………さっさと片付けて家に帰りたい。
その思いは本人でも気付かないほど強くそのまま仕事の集中力に直結し、結果タークスではかなりの任務成功確率を誇っている。
類稀な人材だ。
「ハインは別に任務に出ているため後に合流することになっている。健闘を祈る。」
送られてくるGPS機能の画面を確認しつつ到着したのは山奥の石の鳥居だった。
気味悪く歪曲したような異形の石の物体をくぐると同時に画面が静止した。
「……圏外…?」
しかしアルエは何の躊躇いも無く携帯を上着に収め獣道を進みはじめた。
少し歩き現れた道をそれなりに進むとそこには予想外の光景が広がっていた。

「いらっしゃ〜い。遠いとこからご苦労さんです〜。」
第一村人発見。と同時に日本昔話のような囲炉裏の家が一つの建物を囲む様に並んでいた。
予期せぬ長閑さに立ち尽くしていると第一村人と第二村人が運んでいた水を柄杓で掬い、「イサエ様の賜物ですよ。」優しく差し出した。
………とにかく飲んでみるが見たとおりのただの水だ。
「済まないが…この村は一体…?」柄杓を返すついでに聞いてみることにした。
そして数秒にして後悔した。
何について話しているのかさっぱり飲み込めない。何やら意気揚々と話しはじめ、本社で喚き散らしていた連中よりか遥かにわかりやすいはずなのに、その連中と変わりないような言葉に軽く失望した。
聞き取れた単語は
『イサエ様』
『ホシナミ』
『報われる』

………とにかくどこかで経緯を話し泊めてもらおう…。
そう考えるとやはり一番に目がつくのは、そこだけ時代を抉り取られた様に建てられた洋館だ。
すると突然屋敷の門が扉が開き、中から3人の取り巻きとともに貴婦人が現れ、村中の人間が一斉に跪いた。
長いドレスの裾を取り巻きに持たせ女は跪く村人に濃紺の御香を手渡しながらゆっくり近づきアルエの前で止まり言葉を紡ぐ。
「私はホシナミと話ができる。すぐにそれがわかる。」
意味が本当にわからない、未だ嘗てないほどリアクションに困る。
アルエは言葉が出ないかわりに村人達はこの女に喝采を揚げている。


何とか日が暮れる前に泊めてもらえる家を見つけ、この家の者からあの貴婦人について話してもらうことにした。
あの御香を燻らせた囲炉裏の炎の明るさで例の刺青を見え隠れさせ家主は涙ながらに語った。
イサエ様と崇められているのは誰がどう見ても明確だがあの夫人のようだ。
そして彼女はホシナミを読み取ってありとあらゆる災いから私達を救ってくださる。というものだ。
言ってみればただのインチキ宗教と被害者か。ならば神羅を狙うのは何故?ホシナミと関係が…?
考えがまとまらないせいなのか意識が遠のき、アルエはその場に倒れこんだ。


File,2 date 30.sep
調査に出たタークス・アルエは山中での電波障害により連絡不通。
GPS反応が途絶えた付近を中心に捜索隊及び事件の解決班を要する。


どれだけ時間が経っただろう、ゆっくりと体を起こしてみる。どこにも外傷はないようだ、科せられた手錠以外は何ともない。
「気が付いたわね。」
焦点を手元から放してみると先ほどの板の間ではなく綺麗に引かれた絨毯に佇む
イサエ…。
いや、様子がおかしい。人間が居るという気配がまったく感じ取れないが、何か温かみを感じる。一度だけ目にしたことのあるエネルギー源をふいに思い出させた。
「……ライフストリーム……。」
「……!!」
魔晄炉の中でも特別な施設、ニブル魔晄炉の警備に当たった頃、相方だった男の話の中で出たこの単語とその場にあったあるものを思い出した。
生体サンプルを長時間ライフストリーム、後の魔晄に当てることで人知を越えた生物に進化する。その進化せざる終えない哀れな生物は。

今、その生物が目の前にいる。何よりの証拠にあの瞳の晄はソルジャー以上の妖しさを見せる魔晄そのものだ。
イサエの様子を察した取り巻きは突然取り乱しはじめ、その場から逃げ出す者や許しを請うような姿をする者もいたが、やがて光や水となって星に還っていった。
「…許さない。ホシナミの…流れを……返せ…。」手錠は本来の形を忘れ魔晄となってもアルエの手の自由を奪っていた。
次の瞬間、2発の銃声が響き手枷と化け物の胸を貫いた。
「あの昔話に助けられた。感謝する。ハイン。」
銃創からは光の粒が飛び出し、常人なら生死に関わるであろう致命傷をいとも簡単に治癒させ笑みさえ浮かべている。
「あの話には続きがある。魔晄研究が行われた切欠は古い書物に書かれていた“死人”という存在らしい。」
「………死人?」
「ライフストリームは太古では密度を増すと幻光虫と呼ばれ視覚化されてたらしい。そして幻光虫がさらに凝縮することで……。」
「…死人……に…。」
「生前死を認めなかった者の魂は幻光虫に心を映し、この世に留まる。」
イサエは死人としてライフストリームの循環を乱す神羅に復讐をするために仲間を送ってきたのか。なら今のように仲間を還したのは何故?
ハインの拳銃は的確にイサエの急所を捉えているが溢れ出す幻光虫で決定打とならなかった。
「アルエ、今はコイツを何とかするのが先決だ。」ハインは引き金から指を外し二丁分の銃弾を地面にばら撒いた。
「……!!ハイン…?!」
「昔はこんな死人に困った連中もいたんだろな。」ハインは水晶の様に透き通った一発の銃弾を取り出し銃に込めると一度額にあて真っ直ぐ構えた。


バンッ

きめ細かい光を纏い弾はイサエの額を打ち抜いた。イサエの動きが完全に止まったのを確認し、ハインはアルエに何かを投げ渡した。

「『死人は異界へ』。そいつの入っていた箱のラベルに書いてあった。」
アルエは見たこともない輝きのマテリアをグローブにはめ、一気にイサエとの距離を縮め腹部を狙った。今までとは比べられないほどの光が溢れ幻光虫は宙へと消えていった。


File,3 date 6.oct
今回の事件の元凶は魔晄の原点であるライフストリームが原因と判明。
度々現れ騒動を起こしていた連中は大昔の教本に記載されている死人だと発覚し、彼らはリーダーの特定の死人の過保護とホシナミ(ライフストリームだと推測)の乱れた循環で情緒不安定になったをリーダーの暴走を止めさせたく、魔晄の扱いに長けた我らに協力してもらうべく侵入したと推定できる。
今後このような事態は阻止できるとは断言できないが、当社の魔晄発掘を押さえれば確率は低下すると考えられる。

アルエは書きあがった報告書をドアに凭れたハインにペラペラと見せた。
鼻で笑った後シュレッターのスイッチを押し部屋を出たハインの後に続くように用紙を機材の稼動部に適当に挟みアルエも部屋を出た。


2005/11/17
トリックを意識しつつ]に思い馳せました。長すぎ真下。シュレッターはブイーンってなったままで。(煩)